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死にかけると早いのよ

― 「思い立つままに」から続く ―

東海道の宿場町、島田は母親の故郷である。
家族で車を飛ばして来たのは、祖母が亡くなったときが最後になった。1年後の命日のひと月ほど前に祖父もあの世へ逝ったのだが、そのときはいろいろな事情が絡み、わたしは妹と留守番で東京に残された。

祖父母は昔にしては大恋愛で結ばれたとかで、まあ、だから、じいちゃんが命日のちょっと前に日当たりのよい縁側で居眠りするように逝ったのは、ばあちゃんが迎えに来たのだろうと皆が思ったようだ。わたしもそう思う。
じいちゃんの葬儀に出られなかったわたしは、親に内緒で何度か母の故郷へ向かった。いろいろなオトナの事情があるから、独りでうろ覚えの道を辿ってお墓に会いに来ていたのだ。その最後のお参りから、気がつけば20数年ぶりなのである。

20年も経てば、赤ん坊だってすっかりオトナになる。町が変わってしまうのも仕方がない。
きれいだけど殺風景な駅前広場から真っ直ぐ伸びる大通りを、昔の東海道、現在の国道34号線に向かった。
と、「わ、更地!」。

20100805d

たしか、いや、うろ覚えだから確かじゃないけれど、国道にぶつかる角にはスーパーがあったように思う。お参りの花を買おうと当てにしていたのに、何もなくなっちゃった。

国道沿いは商店街になっていて、昔ながらの小さな店が軒を並べていた。小さな映画館もあった。それがやけにさっぱり整理され、通りは殺風景な雰囲気が漂っている。開発が進んだのだか見放されたのだか微妙な感じがしてくる。
この通りにはもう一つ、小規模スーパーのユニーがあったはず。
だったのが、「わ!」。
ユニーであったはずのビルは看板もなく、グレーの廃墟に姿を変えていた。

20100805e


花が買えない。
それだけじゃなくて、軒並み店がなくなっているのがショックだった。田舎が田舎らしくあってほしいなんて、よそ者の身勝手な落胆と分かっていても、もうちっと昔の面影に触れたかった。
と、元ユニーがあったはずの反対側に「花」の看板が目に入る。

サッシの戸を開けると、店のおばあちゃんがシキミの束を床に広げて選り分けている最中だった。
花屋といっても華やかなお花屋さんとは違って、仏前・墓前用の花に限るって感じの店だ。

「お墓参りのお花を……」

小菊でも入れてもらえばいいかと思っていたのだが、朝一の客に機嫌よさげなおばあちゃんは、リンドウとか小さい向日葵とか、あるったけの花を薦めてくれる。店にあるのはせいぜい8種類ほどだったけど。

「これ、可愛いでしょ。これも可愛いのよ~」

『高くつきそう』
スーパーで500円くらいの花束を見込んでいた身としてはドキドキするものがあった。
そこへ、ルンルンおばあちゃんの殺し文句が飛んできた。

「こんな可愛い人が持って行くんですもの!」

綺麗と言われても(めったに言われないけど)心は動かない。でも、「可愛い」にはちと弱い。
島田の駅に着いてからのショック続きを、極めつけの殺し文句が一瞬にして払拭してくれた。嬉しさ余って、お花をあれこれ選んでいるおばあちゃんの背中をパシッと叩きそうになったのを空振りでやめておいた。
もうおばあちゃんにお任せするしかない。

「この辺、ずいぶん変わっちゃいましたね」

花束ができるのを待ちながら、わたしは言った。

「そうなのよ、寂しいわね」
「何だか殺風景になっちゃいましたよね」
「そ、こんなこと言っちゃ何だけど、町は死にかけると早いものよ」

死にかけると早い。
花の値段以上に、その言葉にドキドキした。内緒話のように声をひそめたおばあちゃんの言い方も怖かった。
でも、おばあちゃんのルンルンオーラは変わらず、可愛いわたしのために可愛い花束をつくってくれていた。

― 「歓迎のサイン」へ続く ―

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