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振袖の罰 ~人の気持ちを酌む~

20100112a

祭日の午後、靖国通り沿いのすき家でお腹を満たし外へ出ると、振袖姿の娘さん三人組とすれ違った。

アップにセットした髪、ふわふわの白い毛のショールに白地の振袖。
見分けがつかない三人の晴れ着姿を「似たり寄ったりで個性がないね」と評する尖がったオトナもいようが、『それもいいんじゃない』と思うようになったのは、わたしも少しは丸くなったということだろうか。
歩幅のとれない足取りで遠ざかる後ろ姿は、冬の緩い陽射しに眩しく映った。

「成人式の着物の預金、120万あるからね」
日頃、「(ウチには)お金がない」素振りの母から聞いたときはびっくりだった。
「120万?」
「そうだよ、コツコツ貯めたんだから」
母は自慢げでもあり嬉しいのを押さえ隠しているようでもあった。

二十歳前の娘にとって、120万円はやたら大金に思えた。
バイトで月にもらう数万円をはるかに上回る額。
それだけあったら何でもできそうな気がした。
お金の価値も苦労も、本当のところはなーんにも、私は分かっていなかったのだ。
そうして最悪なことを並べ立てていた。

「120万円もあるなら、毛皮のコートが買えるじゃん!」

「あ、それよりアメリカに行きたい」

めったに着ない振袖なんかもったいないとか、毛皮のコートなら歳をとっても着れるだとか、アメリカに留学したいだとか、勝手に使いみちを喋くる娘を母は口をつぐんだままじーっと見ていた。その視線に怒りらしきものを感じたときは、もう遅かった。

「もう、いい。このお金はわたしが貯めたものだから、わたしが使いたいことに使う」

バカな娘にも、母の言い分が正しいのだけはそのとき解った。
ただ、褒めるところなど一つもないような娘のために母がしたかったこと。その思いを気持ちのままに理解するには、ずいぶんと時間がかかったものだ。

ある時期から、成人の日がちょっぴり胸の痛む日になった。
この日の振袖姿を見ると、まともに顔をあげられない気分になるのだ。
母の思いは妹が姉の分まで酌んでくれたが、それでも成人の日は、馬鹿娘には母の思いを邪険にした罪の日になった。

「ひとの気持ちは酌むものだ」
そう思うようになった。
気持ちを酌むには気持ちが解らなければならない。
解らないうちは、解っていないことすら解らないのだから始末が悪い。
だったら、
「自分を主張したり相手を批判したり、利口ぶった口を利く前に、ちょっとは考えたほうがよさそうだ」。
そう思うようになるのも成人の日からずいぶん時間がかかった。
そう思っても、なかなかそのようにはできずに、利口ぶった自己主張がつい前に出てしまう。
そんなことが、何度も何度もあって、あとで悲しい思いをする。
未だ、できるようになったとは思っちゃいないが、自己主張の暴走みたいなことは起こらなくなったように思っている。

不意にすれ違った振袖姿。
ひょっとして、あの三人組みは「忘れちゃいないだろうね」のお遣いだったのだろうか。
「振袖の罰」を受けて胸が痛んだのは、馬鹿でもちっとは解るようになった徴。
罰の悲しみは今もうっすら残っているけれど、振袖姿の眩しさを、眩しいまま見られるようになったこの頃。


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