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OJT

午後の3時過ぎ、遅いランチに冷やしたぬきが食べたくなって、編集者のクマさんとセルフサービスのお蕎麦屋さんへ。

発券機で買ったチケットをカウンター越しのおにいちゃんに渡す。
2枚のチケットを指差しながら、
「こっちがうどんで、こっちがお蕎麦ね」
そうお願いすると、一拍ぐらい置いて、おにいちゃんが復唱する。
「ソバー、ウドーン」

近所のコンビニで働いている中国系の人たちは、たいてい日本語が流暢だけど、このおにいちゃんはまだたどたどしい。親子ほど年上の店のおやじさんに注文を通してくれたが、うどんと蕎麦が間違って出てくるんじゃないかと、ちょっと不安だった。
まあ、違ってたら、それはそれで受け入れてしまう、わたしは店にやさしい客なのだが。

出来上がるのを待つ間に、冷水機に二人分のお冷(ひや)を取りに行く。で、戻ってくると、何やらカウンターの中で起こったらしい。おにいちゃんが、おやじさんに厳しくひそひそと叱られている様子。カウンターの外にも緊張感が伝わってくる。

『どしたの?』
目で訊くわたしに、クマさんが目をぱちぱちしながら片手を払って見せた。
「頭、パコーンって」
おにいちゃんが後頭部に手を当てているのは、そのせいか。
何をやらかしたのかカウンターの中の出来事は分からないが、おやじさんはとっさに子どもの頭を叩(はた)くみたいに手が出てしまったらしい。

そうこうするうちに、わたしらの注文した品は、うどんと蕎麦を違えることなく出てきた。

カウンターの中では、頭を叩かれたおにいちゃんの無言の抗議が続く。見て見ぬフリのわたしらの興味も続く。後頭部に手をやりながら、伏目でつぐんだ口元がおやじさんを責めている。
「そんなに強く叩いてないじゃない。
 軽くポンってやっただけでしょ」
と、ひそひそ声でなだめるおやじさん。
わたしは見てなかったけど、たぶんそれは違うと思う。
違うと思うけど、おにいちゃんは、おそらくおやじさんの予期せぬことをしでかしたに違いない。

見ないフリで見ていても仕方ないので、わたしらは窓際の席に自分のお盆を運び、暫し腹ごしらえに没頭した。

帰り際、器とお盆を返す棚に行くと、相変わらず口元を固めたまま洗いものをするおにいちゃんを、おやじさんが懸命に取り成していた。
「かわいく思ってるから、つい手が出たんだよ」
「ね、かわいくなきゃブタないって」
「ね、ね」

「あーい、わかりました」
ようやくおにいちゃんが口を開いた。

店を出たわたしらは、微笑ましさもあって大笑いしてしまった。
4月に新人を迎えた職場は、OJT(On the Job Training:仕事を通して訓練をすること)の時期かもしれない。
おやじさんのOJTはうまくいくだろうか。
連休明けにまた、冷やしたぬきを食べに行ってみよ。

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