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自分の中の境界線

どうしたものか……。
郵便局から帰って来る途中、シャッターが閉まったある店の前で、その子を見つけてしまった。
地面に座り込むようにして、きょとんとした表情で落ちていたのだ。

どうしたものか……、拾って帰るといってもなあ。

まず、その子に触れていいものやら考えた。
近くの伝線の上には、親鳥らしいのが、じっと見守るように止まっている。

持っていたデジカメを取り出し、2メートルほど距離を置いて、その子にカメラを向けた。
どうしたものか考えながら、一回、二回。シャッターを切る。
答えは初めからあったも同然、やはり、わたしには無理だわ。
親鳥の代わりはできない。

仕事場に来ていたライター氏に、その子のことを話すと、「ツバメの子は巣に戻してやっても他の子たちに排除されてしまうらしいよ」と言う。
それを聞いて、少し安堵する自分。
が、見つけてしまった立場としては、「親鳥の代わりはできない」と結論を出したにもかかわらず、あのまま立ち去ってよかったものか、やはり気になった。

ネットで調べてみると、人間の手が触れたツバメの子や巣には、親鳥が警戒して近寄らなくなる、などとも書かれている。
そもそもツバメの巣は、人目に触れる位置にあっても、容易に人の手が届く高さには作られない。人間の生活圏にいながら、人の手出しができない場所で、天敵であるカラスなどから身を守っているのだ。
ところが人間としては、身近な場所に巣を作ることで、親近感を持って見てしまうところがないか?
野生は野生なのに。
わたしが「自分は親鳥にはなれない」と結論を出したのは、人間と野生の境界線はあると思ったからなのだ。

巣からこぼれ落ちたツバメの子は、その人生、じゃない、ツバメ生の大失敗をしてしまったことになる。
そこに人が介在していいものなのか? 
「どうしたものか……」と考えたのはその点だ。

しかし、ネットでさらに調べてみると、ツバメの子を拾ってちゃんと育てている人もいる。
立派だ。すごいよ。
(温度管理が必要らしい)暖かい巣を用意して、15分おきだか2時間おきだかに餌を与え(ペットショップで売っているミルワームというのがよいらしい)、飛ぶ練習までさせて、旅立たせてやる。
もう、ホント、申しわけないが、わたしには無理だってば。

その無理は承知で、1時間ほどして見に行ってみると、その子は跡形もなくいなかった。

嵐の晩に、「ピンポーン」。
ドアを開けると、びしょ濡れの若いイケメンが立っているではないか。
「終電もなくなって行くところがないのです。一晩、泊めてはくれませんか?」
「まあ、こんな嵐の中を。
 さあさあ、ウチは四部屋ありますから、今夜は一部屋お貸ししましょう」
若いイケメンくんは、「決して見ないでください」とキッチンへ向かうと、何やら料理を始める。
「まあ、ツバメの巣のスープ!」

拾って育てた末には、こんな「若いツバメの恩返し」があったかもしれない。
と、そういう期待はしないけれど、あのツバメの子は、カラスや猫に持ち去られたのではなく、世話のできる誰かに拾われたような気がしている。

自分には無理と結論しておきながら、誰かに期待をかけるなんぞ、何と勝手なことだろう。
わたしは、そういう人間なのだ。

あの子が、わたしの勝手な期待に反してツバメ生を終えていたとして、そうであればそれは仕方がない。
可哀そうではあるが、生存の過程で取り返しのつかない失敗は、生き物にはある。
親鳥が守る巣の中でさえ、餌にありつける子と、なかなか餌にありつけない子の生存競争があるのだもの。

*野鳥の会のポスター http://tinyurl.com/l9a9onw

20130610a

(*知ってるとは思うが、中華料理のスープの具などに使われるのは、アナツバメの巣であり、一般的なツバメとは違います。)

ioWEB> <魚の庭
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